学生活動
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代表者名 | テーマ | 概要 |
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島袋愛乃 | 子どもの生き方の幅を広げる包括的性教育の理論と実践に関する検討 (2023年度) | 本研究では、UNESCO が提唱する「国際セクシュアリティ教育ガイダンス(以下、ガイダン ス)」と、“人間と性”教育研究協議会(以下、性教協)の樋上典子によって行われている包括 的性教育実践「性の学習」に着目し分析することで、「ガイダンス」の内容がどのように解釈 され、実践に具体化されたかを明らかにすることを目的とした。研究方法は、文献調査とフィ ールドワーク(「性の学習」の授業見学、樋上へのインタビュー)である。文献調査では、樋上 や性教協の基盤にどのような理念や問題意識があるかということや、「ガイダンス」の内容か ら包括的性教育のカリキュラム構想に必要な要素を整理した。フィールドワークでは、「性の 学習」の実践「生命の誕生」を見学した。そこでは、自分たちがどのように生まれてきたかに ついてほとんど知らない生徒の現状を踏まえて学習内容が構想されており、胎児を主体にした 視点から出産の経過について科学的に知り、胎児が子宮の中で生きるための活動をしてから生 まれてきたことを学ぶ内容となっていた。生徒からは、出産について科学的に知ったからこそ 命の大切さを感じる感想や、自分は親のものではなく独立した存在であると認識した感想が見 受けられた。樋上へのインタビューでは、文献だけでは明らかにできなかった樋上の問題意識 や子どもの実態の捉え方、カリキュラム構想の手順など実践現場に即した話を伺うことができ た。これら樋上の実践の分析を通し、「性の学習」には、生徒の実態や課題を基盤として、キー コンセプトや知識・態度・スキルに基づいた学習目標の設定、学びの繰り返しや人権の尊重な ど様々な視点から「ガイダンス」の要素が反映されているということが分かった。また、樋上 が性教協での学びを活かしながら、日本の実態に即した形として包括的性教育を具体化してい たことが明らかとなった。 |
原田雪乃 | 土佐いく子の綴方教育実践に関する位置考察ー子どもの認識の育ちに着目してー | 現代社会において、貧困家庭や共働き家庭の増加、核家族化、ひとり親家庭の問題など背景に生きづらさを 抱える子どもも少なくない。そのような家庭生活の歪みはいじめ、非行、暴力、不登校といった学校での問題 などに象徴的に発現してきている。このような生きづらさを抱える子どもたちに対して、全国生活指導研究会 が行ってきた集団づくりを通したアプローチや子どもの生活の問題に向き合う生活教育の考え方に依りながら 多様な生活指導の在り方が模索されてきた。そのような生活指導の 1 つの潮流として、本研究で取り上げる自 分の生活を綴ることを通して、生活を見つめさせる生活綴方教育の実践がある。
生活綴方教育とは、子どもたちに生活のなかで見たこと、聞いたこと、感じたこと、考えたことをありのま まに書く文章表現活動の指導をとおして、豊かな日本語の文章表現能力を育て、事実にもとづいた生活認識と なかまの連帯感を形成する教育と言われている。中でも、戦前の北方性教育の伝統を引き継いだ、無着成恭の 『山びこ学校』の実践は綴方の象徴的な実践とされている。この実践では、東北農村での貧しい生活現実を綴 方によって見つめさせ、子どもたちがその生活を変革する主体へと育む姿が描かれている。 生活綴方教育では、このように書くことで自分の生活を認識し、書いたものを読み合い、お互いの生活を知 っていく中で人と人とのつながりが生まれる。加えて、生活綴方は、ことばにこだわる仕事である。人はこと ばによって自分を見つめ、思考し、表現していく。それを通して、人としてのことばを豊かにしていく。 現代においても、このような生活綴方教育の伝統を継承し、生きづらさを抱えた子どもたちが自分の生活を 綴る中で生活を再認識し、仲間とともに自らの抱える問題に向き合うことのできる力を育むことに苦心してい る教師がいる。本研究では、そのような教師の取り組みに焦点を合わせて、子どもたちの生きづらさに寄り添 う綴方教育の在り方について考察した。 |
倉橋文 | 異文化理解を実現する授業づくりに関する検討ー大和市立下福田中学校の「選択国際」の実践に着目してー (2021年度) | 外国につながる子どもたちが自己のアイデンティティを肯定的に捉えることができるような授業づくりの方策について研究を行った。具体的には、外国につながる子どもたちが、お互いの文化を相互に理解するような異文化理解を求める授業づくりの方策を検討するために、先駆的に外国につながる子どもの支援を行っている学校として横浜市立飯田北いちょう小学校(以下、いちょう小学校)及び、大和市立下福田中学校(以下、下福田中学校)の実践に着目し、分析を行った。具体的な調査としては、文献調査に加え、学校関係者や実践者、研究者へのインタビュー調査と当該学校におけるフィールド調査を行った。 いちょう小学校に関する調査からは、同校が学校行事を通じた学校づくりを行うことで自分と異なる文化や国籍をもつ子どもの存在が当たり前のこととして捉えることができる環境を形成することを促す一方で、調和を大切にするあまり文化の差異の問題を個人の問題に解消してしまい、異文化に関する理解を表面的なものに留めてしまっていることが明らかになった。 一方で、これとは異なる異文化理解のアプローチをしている学校に下福田中学校がある。同校では「選択国際」という授業において、普段の授業では周縁化されてしまう外国につながる子どもたちを授業の中心に位置づけて実践を行っている。この選択国際はいちょう小学校とは対照的に、授業において外国につながる子どもがもつ差異を浮き彫りにすることで、彼女・彼らの抱える困難を個人ではなくより包括的な問題として捉えなおし、いちょう小学校とは異なり、日本人の優位性や抑圧された関係を消失させ、人として対等な関係を築くことができる実践を企図していたことを明らかにした。この2つの学校の分析を通して、研究課題にある外国につながる子どもたちが自文化を肯定的に捉える授業づくりの方策について詳らかにした。 |